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「反原発」の不都合な真実 (新潮新書)「反原発」の不都合な真実 (新潮新書)
藤沢 数希

新潮社 2012-02-17
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2011.3.11後初の衆院選挙結果を見ても、原発問題は冷静さを取り戻してきたように思える。しかしながら、それは冷静に考えた結果というよりは、単に意識しなくなっただけというのが正しいところでは無いだろうか。反原発の主張根拠は、以下に集約されるだろう。

・危険性
・コスト(賠償コストを加味すると原発は高いといった類のもの)
・その他のエネルギー源で代替できるという誤解
・核廃棄物

本書ではこ危険性、代替に対する誤解、廃棄物に対し、具体的に原発を停止した際の弊害をデータ含めてわかりやすく解説する(特にこのわかりやすさは秀逸で、Web上で有名な人物であるのもうなずける)。出典はきちんと明示してあり、ファクトベースで著者の主義・主張の類でないことも、信頼できる。

まず危険性であるが、(他の発電方式との)比較と、原発自体に分けられる。前者では、WHOのデータより大気汚染で年間115万人、日本では3.3万人~5.2万人が亡くなっていること、そのうち3割が発電所からの大気汚染物質であることを示し、原発を停めることによる危険の増加を提示する(P.20~)。これは、統計上感知できない低レベル放射性物質と異なり、疫学的に認められているものである(例えば、今日本では原発を停めてたくさんの火力発電をフル稼働しているが、石炭火力は放射性物質や重金属を出し、かつ原発を停めることで環境アセスを簡略化する方向にある)。特に、原発の放射能ばかり気にして3.11の後に香港に脱出した外資企業があるが、実は東京の最大放射線量は毎時0.07マイクロシーベルトだったのに対し、中国の石炭火力発電所の影響が大きい香港では毎時0.14マイクロシーベルト
だったというのは、皮肉である。ここで、年間の死者の量によってニュース価値・メディアと人々の反応を以下の通り分類しているP.47の表(以下、抜粋)は、大変興味深い。

 年間死者数      例                 ニュース価値  反応 
  0~100人      放射能、O157、狂牛病    大         パニック
  100~5000人   HIV、熱中症           中         社会問題化
  5000人~20万人 交通事故、大気汚染、自殺   小         日常化

また、原発自体の危険性としては、低放射線被曝の危険性が否定されること(公平に言えば、完全否定されるものでもないと思うが、統計上有意なデータが出ない)、高放射線障害は原発作業員に症状が出ていないようにコントロールできること、さらに最新の原発ではフクシマのように電源喪失しても冷却してメルトダウンしないといった、技術的なところにも踏み込んでいる。

次に他のエネルギーで置換できるといった誤解は、再生エネルギー(風力・太陽光)は不安定で効率悪くコストがかかるため主力になり得ないことを、先にFIT(政府による補助制度)を導入して失敗したドイツ・スペインの弊害をもとに示す。また、火力では資源問題や、公害による健康被害やCO2(地球温暖化)問題などと絡め解説する。

最後に廃棄物に対しては、今はロンドン条約で縛られているけれど海洋投棄がオプションの1つになりうることを、放射性物質は重いので海底に沈殿すること、中国やソ連は日本海に散々投棄してきたこと(それで問題が出ていない)など技術・政治・歴史より示す。また、太陽光発電もイタイイタイ病の原因物質であるカドミウムなど大量の廃棄物を生み出す(しかしながら、放射性物質のように厳格な管理はされない)こと、核廃棄物の体積が非常に小さいこと、さらに現状は核廃棄物がゴミとなるのはコスト的な問題で、将来、再利用が化石燃料等を下回れば新たな燃料源になりうることなど、核のゴミ問題が言われるほど問題でないことを示す。

そもそも物事は全てに対して最良ということはなく、大抵はリスク・コストその他、比較によって決めるべきだろう。しかしながら、原発に関してはなぜか問答無用に悪とする論調が多いのが不思議である。もともと感情論の多い反原発であるが、本書を読むとそれらは単なる感情問題の粋を超えていかに弊害が多いか、再考のきっかけになるのではないか。